次に,銀行が参加するクレジットデリバティブとの関連で重要な変動利付債およびアセットパッケージに焦点を当ててみよう。今,シングルA格で中堅の自動車メーカーであるミカワ自動車が発行する残存5年の変動利付債がL+5で取引されているとする。このL+5というのを,「銀行から見ると自己の信用リスクはない」という点を踏まえ,ある銀行がこの変動利付債を購入するという前提で,前節と同様の分析をしてみよう。
将来支払が見込まれる金額の現在価値に対する市場の総意が債券価格に具現されることを利用して,ここまで「価格」の差によって信用リスクの存在の検証,ならびに信用リスクの計量化手法の基本を見てきた。前述のとおり,債券は価格が決まれば当然に利回りが決まってくるし,逆もまた真である。信用リスクが直接観察できる市場は債券市場であり,債券取引は金利の取引であるから,ベンチマークに対する゛適正な″スプレッドというのがある信用リスクのカテゴリーに固有に存在しているという誤解はある意味当然である。また,日常の取引現場においてはその上うに一旦は感覚的に捉えておかないと市場参加者として不都合が生じることも多いであろう。変動利付債の取引を行う際に,価格から倒産可能性を逆算し「なぜ1週間前よりも倒産確率が下がっているか」という議論よりも,「先週はL+25であったけれでも今日はL+23まで買われているのはなぜか」という議論の方が直感的であるし,「国債利回りプラス15で買いたい」というほうが「倒産可能性0.2%の価格で買いたい」というよりも実務上正気であろう。
次の例は,もう少し現実ならびに金融に即したものにしよう。明日償還を迎える債券AとBがある。Aは国債,Bはある企業が発行した社債である。いま,Aの価格が額面の100%,Bの価格が額面の98%であるとき,Bの価格の持つ意味を市場メカニズムに基づいて分析してみよう。
国債は定義として信用リスクがないので,明目額面で償還される可能性は100%である。今日から翌日までの金利であるオーバーナイト金利の影響を微々たるものとして無視すると,額面が100%の確率で戻ってくるのであれ
ば当然にして価格は額面の100%となる。では,B債の価格98%の意味は何であろうか? 前節に即して言えば「市場参加者は,B債の持つ価値が額面の98%であると何とはなしに考えている」ということになる。もう少し具体
的に挙げていくと,まず,市場参加者の総意としてB債が明日額面で償還される確率は国債ほど高くない,と言うよりもまず償還されないと考えられているということが言える。ところが,期限に償還されない債券あるいは債権の価値はゼロであろうか。